とある秋晴れの日のレベル上げ。


その日、僕は戦士へ転職し地道にレベル上げをしていた。
メインの職業は武闘家だけど、他の職業を育てておくと何かと得なのだ。

酒場で同レベル帯の冒険者とパーティーを組み、僕はモンスター退治に繰り出す。
経験値が二倍になるアイテムがたくさん余っている。
いまこそこれを使ってしまおうと思った。

狩り場は現在のレベル帯から見たら少し辛いかな?という場所を選んだ。
やっぱり強いモンスターとの戦いは緊張感があって楽しい。
さらにパージョンアップ後は強いモンスターを倒すと経験値にもボーナスが付くようになった。
せっかくだ。ハイリスクハイリターンに挑戦してみようじゃないか。

気合を入れた僕は、普段は立ち入らない様な禍々しい土地へ足を踏み入れた。
空は暗く、あたりには毒沼も点在している。ひどく物騒な場所だ。

妙な息苦しさを感じた僕はコントローラーを机の上に置き、部屋の窓を少し開けた。
窓の外はゲーム内とは対照的で、それはそれは絵に描いた様な秋晴れが広がっていた。
そうか、もう10月も終わるのか。今年もあっという間だったなあ。

レベル上げを頑張ったら秋刀魚を食べよう。
そう心に決め、僕はヘビーなモンスター退治へと向かった。

戦闘は予想通り厳しい戦いだった。
その時のパーティ構成は戦士である自分と旅芸人、僧侶、魔法使い。
各々の役割がハッキリしているパーティだ。

戦闘が始まると戦士である僕はイの一番にモンスターに向かって駆け出していく。
次の瞬間には旅芸人が攻撃力を、僧侶が防御力を上げる呪文をそれぞれ唱え、
僕はモンスターの足止めを兼ねて攻撃を加える。
そこに魔法使いが呪文をあわせ、大ダメージを与えていく。

やっぱり、戦闘はパーティを組んで行うほうが楽しい。
もちろん他のプレイヤーと組むのが一番楽しいけれど、
今回のようにCPUが操作するサポート仲間でも、それっぽい戦闘が楽しめるものだ。

僕と頼れるサポート仲間のパーティは、心地よい緊張感の中モンスターを倒し続ける。
思いのほかMP消費が激しいので、途中何度か宿屋に戻った。
その労力を考慮しても、ギリギリの戦闘を超えて得られる経験値は魅力的だった。

戦士が先頭に立ち、旅芸人と僧侶が補助に回る。
そして魔法使いがドンと大きなダメージを与える。
完成されたリズムのように、戦いは繰り返された。
うん、良い感じだ。

ふいにチリリン♪と、ドラクエ10内でお知らせを告げるベルの音がした。
見ると画面の右上でドラキーマが、
「wiiリモコンの電池が切れそうです!」と警告を発していた。

wiiのコントローラーは電池で動いているから度々こんなことがある。
そういや、電池の買置きはもう無かったことを思い出した。

しかし、まだ慌てるような話じゃない。
経験上、このドラキーマはかなり心配性なのだ。
「もう切れそう!」とか言いながら1~2時間は平気でもっちゃうのである。

僕は(経験値2倍の時間が終わったらコンビニにでも行くかー)なんて
思いながらレベル上げに戻っていった。

10分後くらいだろうか。ドラキーマが再度アタフタした様子で、
「wiiリモコンの電池が本当に切れそうです!」なんて飛んできた。

しかし、その時の僕はエキサイティングなパーティでの戦闘に夢中だったのだ。

わざわざ『本当に切れそう』と伝えているドラキーマに対して、
僕は「はいはい、おkおk」と手をヒラヒラさせて追い返してしまった。
今思えば、あの時もう少しちゃんとドラキーマの話を聞いておけば良かった。
後悔先に立たずとかよく言ったものである。

一瞬の油断も許されないような戦闘中、不意にコントローラーが効かなくなった。

(・・・あれ?)

僕が違和感を口にするより早く、三度チリリン♪とベルがなった。
先程のドラキーマである。

「wiiリモコンの電池が切れました」

彼(?)はいつもと変わらない、何を考えているんだか
さっぱりわからない笑顔のまま、事実を淡々と告げた。

「マジか!」

こうなると慌てるのは僕の方である。
なんせ戦闘中なのだ。それも片手でおつりがくるようなウサギやブタ相手じゃない。
もっともっと屈強で恐ろしいモンスターと戦闘中なのだ。

旅芸人が相変わらず僕に補助呪文を唱えながら、
「たのんますぜ!」的な目でこちらを見ている。

「いや、ちょっ! ちょっとタンマ!」

僕は思わずゲーム画面に叫んでしまった。
やばいやばいやばい。電池! どっかに電池は無いか!

残念ながら買置きはない。僕はとりあえず急場を凌げればと
部屋中を見渡す。どっかに電池! 
お客様の中に単3電池をお持ちの方はいらっしゃいませんか!?

ふとエアコンのリモコンが目に入った。
しかし、急いでフタを開けるもそこには単4電池が2本。
ちくしょう、どうして世の中の電池は全て共通じゃないんだ!
我ながら理不尽だとわかっているのに、そんな感情が頭を駆け巡る。

画面を見ると、僧侶と旅芸人が忙しそうにホイミを唱えていた。
魔法使いがモンスターに殴られて死に掛けている。
やばい。やばいやばいやばい。
電池!で・ん・ち!!

僕は財布を掴み、部屋の外に駆け出した。
目指すは徒歩1分のコンビニ。
急いで電池を買って戻れば間に合うかもしれない!

相変わらず外は良い天気だった。
しかしそんなことはどうでもいい。電池を買わなくては―――!
コンビニに着いた僕は早歩きで適当な単3電池を手にとり、レジへと向かう。

「いらっしゃいませー」

幸いレジには誰も並んでいなかった。
見慣れたいつもの店員さんが、いつものようにレジを打ってくれる。
「お会計、398円でーす」

ふとレジ横の中華まんが目に入った。
あー、なんだか小腹が空いた。

「すみません、あと塩ブタ肉まんをひとつください」
「はーい、お会計520円でーす」

頼んだ瞬間、(馬鹿か僕は!急いでるのに!)と気付くが後の祭りである。
僕は電池と塩ブタ肉まんを抱えてバタバタと帰宅した。

結論から書こう。
魔法使いと旅芸人が力尽き、僧侶のMPも枯渇寸前であるが
なんとか全滅だけは避けることができた。

僕は電池を交換し、宿屋に戻って体勢を整えた。
そこに経験値2倍の時間が終わったことを告げに来たドラキーマが、
「ほれ見たことか」と言わんばかりに、画面右上で踊っていた。

「うん、すまなかった」

僕は素直に謝罪する。
今度からは余裕を持って電池は交換しよう。

「なに食べてるの?」
ドラキーマが僕に問いかける。
「んー、塩ブタ肉まん」
僕はモグモグしながら答える。

「・・・一口ちょうだい」
「あげない」
「ちぇっ」

ドラキーマはつまらなそうに去っていった。

それにしても、今日は良い天気だ。
お空が真っ青だ。風が透き通っている。
秋晴れ記念日とでも名付けよう。

「ちょっと散歩でもするかー」

僕はグググッと伸びをしてwiiの電源を落とした。
まあたまには、こんなレベル上げの日があっても良いよね。

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本職はゲームライター。お仕事とは別に、個人の趣味でゲームの話題に触れていくブログ「その日草子」を運営中。大作RPGから格ゲー、ギャルゲーまでジャンルを問わないアラサー♂。けどホラーだけは苦手。お気に召した記事やお役に立てた記事があればシェア頂けると喜びます(・ω・)
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