「応援」から始まった奇妙な出来事。
ドラクエ10独自のシステムに「おうえん」というものがある。
その名の通り、戦闘中である他のプレイヤーを応援することができるというシステムだ。
応援するとピピピッピ♪という笛の様な効果音と共に、エールを送ることができる。
応援されたプレイヤーは少しだけ攻撃力が上がったり、
少しだけ会心の一撃が出やすくなったり戦闘後に得られるお金が少し増えたりする。
応援した側には特にメリットは無い。
強いて言えば応援されたプレイヤーからの「ありがとう!」という声に、少しだけ嬉しくなったりする。
でも僕はそれくらいで十分な気がする。無償の応援だからこそ、素直に受け取れるんじゃないかなと思う。
不健全な考えかもしれないけれどこれがもし応援した側にもいくらかメリットがあったとすれば、
自分が応援された時、「応援してくれたけど、本当は特典目当てなんじゃ・・・」とかなってしまう気がする。
だからドラクエ10の応援は距離感的にも非常に心地よい。
応援する際のメリットが無いからこそ、安心して応援できるというものだ。
誰かを見かけてはピピピッピ♪
こっちの戦士さんにもピピピッピ♪
ピピピッピ♪ あそれ、ピピピッピ♪
すると、あちらさんからもピピピッピ♪なんて返ってくる。
応援返しだ、ピピピッピ♪
ピピピッピ♪ あ、ヨイショ! ピピピッピ♪
特に同じ場所で長時間レベル上げをしていると、
何度か同じプレイヤーとすれ違うものだ。
そんな時は互いに応援合戦に発展する場合があり、妙な連帯感が生まれたりする。
なんとなく、馴染のゲーセンで喋ったことはないけどよく対戦する常連客に似ているなと思う。
とある日の早朝、朝6時頃だったろうか。
珍しく早起きした僕は二度寝するのが惜しくなりドラクエ10を始めた。
通いなれたオルフェア地方の草原を軽快に掛けていく。
普段はレベル上げのプレイヤーで混んでいるのだが、その時は早朝ということもあり比較的空いていた。
「おっ! ドラクエ10でも早起きは三文の得ってやつか!」
なんて思いながら、目当てのモンスターを倒していく。
先客に少々小太り気味なドワーフがいた。
どうやら一人で黙々とレベル上げをしているらしく、担いだ斧を雄々しく振っていた。
いつものように僕はピピピッピ♪とドワーフを応援する。
若干の間があった後、遠くから「ありがとー!」という声が聞こえた。
今度は彼が僕を応援してくれた。
僕も「ありがとう!」と返し、次の獲物を目指して駆けていく。
互いに何回か応援しあいながら30分程過ぎただろうか。
ふと「彼はどこかな」と周囲を見回すと、
フィールドの壁に向かって延々と走り続ける彼の姿があった。
恐らく、「寝落ち」である。
ネットゲーム経験者の方には経験したことも多いだろう。
長時間プレイになりがちなネットゲームにおいて、つい眠気に負けてしまいゲーム中に眠ってしまうのが寝落ちである。
その時、時間はまだ朝7時前。
恐らく彼は夜通し頑張っていて遂に力尽きて眠ってしまったのではないか。
オートラン状態でひたすら壁に向かって体当たりを続ける彼の姿を見ていると、
その頑張りが見て取れるようである。
「まあ、ゆっくりお休みなさいな」
僕は自分の戦いに戻っていく。しかし、彼の様子が気になる。
少しした後、僕はまた彼がいた場所に戻ってみた。
すると彼は「豚」と呼ばれるその地方に生息するモンスターと戦闘していた。
「なんだ、起きたのか」と思ったが、なにか様子がおかしい。
彼はピクリとも動かないのだ。
先程までの勇ましく斧を振り回す姿はどこへやら、
非暴力・非服従を貫くお坊さんのように無抵抗のまま豚に殴られ続ける彼がそこにいた。
(―――寝てる!)
僕は瞬間的に状況を悟った。
ドラクエ10は他のネットゲームと比較した際、キャラクターが倒れた際のペナルティが緩くなっている。
稼いだ経験値や装備を失うというゲームも多いが、ドラクエ10は所持金を一定量無くすのみだ。
とはいえここ小一時間応援し合った仲である。
見殺しというのは気分の良い話じゃあない。
しかし、他プレイヤーの戦闘に割って入ることはできない。
回復をしてあげることは出来るが、僕の回復手段が尽きれば状況は同じである。
なんとかドワーフの彼に起きてもらうしかないのだ。
どうする? どうする?
ジワリジワリと減っていく彼の体力に焦りを覚えながら、僕は弛んだ脳みそをフル回転させる。
(―――そうだ、応援だ!)
正確に言うと、応援した際のピピピッピ♪という効果音を鳴らして起きてもらおう!
思いつくや否や僕は彼の元に駆け寄り、応援を始めた。
ピピピッピ♪
おい、起きろ! ピピピッピ♪
おいコラ起きろ! ピピピッピ♪ ピピピッピ♪
今思えばただの迷惑行為だったかもしれない。
しかしその時の僕は無我夢中で応援を繰り返していた。
ピピピッピ♪
おい、死ぬぞ! ピピピッピ♪
ピピピッピ♪ ピピピッピ♪ ピピピッピ♪
ついに彼の体力表示も赤くなり、無理かと諦めかけた瞬間だった。
「うお」と彼が短く声を発した。そして一目散に逃げ出した。
思わず僕も「逃げろおおおおお!」と声を張り上げる。
彼は死に物狂いで逃げ続けた。
そして無事に逃げ切ると、僕の所に駆け寄ってきて口を開いた。
「寝てましたw」
「ですねw」
「起こしてくれてありがとうw」
「いえいえw 間に合って良かった」
同じ狩り場で応援し合った僕たちは、ここで初めて言葉を交わした。
とはいっても、別に長話をするわけじゃあない。
「もう限界だ」と呟いた彼は早々に街へと帰っていった。
一人になった瞬間、僕は思わずディスプレイの前で笑ってしまった。
こんなこともあるのかと思った。こんな経験もまた、早起きの得なのだろうか。
遠くで別のプレイヤーが戦っているのが見えた。
僕もまた狩りに戻るとしよう。
近くを通りかかったら、応援でもしてみよう。
ピピピッピ♪
早朝のオルフェア草原を、小さなプクリポが笛の音と一緒に駆けていく。
ピピピッピ♪ ピピピッピ♪
また遠くで「ありがとー!」という声が返ってきた。
ふと、中学・高校時代に少しだけ経験した応援団を思い出した。
―――いいよね、応援って。
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