自宅で起こった怪奇現象。
その出来事は日課であるツボギルドの依頼を粛々とこなした後、ルーラストーンで自宅に帰った際に起きた。今日も疲れたなあとボヤきながら玄関のドアを開けると、そこには愛用の布団がすぐ目の前に敷かれていたのだ。
「・・・んっ!?」
僕は思わず両目をこすり、落ち着いてマジマジと部屋の光景を眺める。なにかが違う。いや、違う箇所は明らかだ。部屋の中央に設置したはずのお布団が、玄関前に移動しているのだ。なんだこれは。いったい何が起きたのだ。僕は慌てて自宅の管理人を呼び出した。
「管理人さん! 管理人さん!」
「なんですか急に大声出したりして・・・」
いつもの管理人さんが目を丸くしながら駆けてきた。僕は布団を指さしながら問いかける。
「布団の位置が変わってるのですが、管理人さんが動かしましたか?」
「いえ? 私はなにも動かしてませんよ」
「おおう・・そうですか。じゃあ一体誰が・・・」
「でもまあ、意外と便利かもしれませんね」
管理人さんが妙なことを言った。僕はその意味を理解できず首を傾げた。
「便利って、なにがですか?」
「いや、疲れて帰ってきた時にすぐ寝れるじゃないですか。特に力尽きる寸前なんか、便利だと思いますけどねえ」
あー、なるほど。思わず僕は手をポンと叩いた。たしかにそれは便利かもしれない。特にお酒を飲んだ金曜日の夜なんか、家に着いたらまっさきにお布団の海にダイブしたいものだ。どこの誰が布団を動かしたのか知る由もないが、これはこれでオンラインゲームっぽくて面白い。せっかくだ。しばらく布団はそのままにしておこう。
「じゃあ私は帰りますね」
管理人さんは軽く会釈して玄関に向かった。僕はその後ろ姿を見送る。
「すいませんね、変なことに呼び出したりしちゃって」
「いえいえ、お気になさらず。では」
ガチャリと音を立てて管理人さんは去っていった。残された僕は玄関前に移動された布団にゴロンと寝転んだ。住み慣れた部屋も、家具の配置が変わると新鮮なものだ。見慣れたはずの天井のシミも、なんだか別の表情を見せていておもしろい。そのまま僕はウトウトと心地よい夢に吸い込まれていった。
そんな時、突然ガチャリと玄関のドアが空いた。
「あ、すみませんー。管理人ですー。そういえば庭の畑のことなんですけどもー」
管理人さんの声がした。
「あれ? しとぎさーん? どこですかー?」
管理人さんは布団に寝ている僕に気付かずそのまま部屋の中に入っていき―――、
ムギュ! 「ぐえっ!」
彼女は思いっきり、布団で寝ている僕のお腹を踏みつけたのだった・・・。
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