【ポケモンGO日記その5】息子のヒトカゲ
相も変わらず、僕はせっせとポケモンを捕まえている。今のレベルは8。マイペースに遊んでいるので中々レベルは上がらないけど、まあ急ぐゲームでもないし、ゆっくり楽しんでいる。
僕がポケモンを捕まえる場所は主に2カ所。一つは自宅からアクセスできる近所のわくわく公園(仮称)。もう一つは夕食の買い物がてらに近くを通る最寄りの駅である。どうやら近所に熱心なポケモンGOユーザーが住んでいるらしく、駅前のポケストップにはいつもルアーモジュールが刺さっている。僕は毎晩、買い物に行く際にはありがたくそのポケストップを利用させてもらっていた。
その日の夜21時頃だったろうか。いつもと同じように、僕は駅前のベンチに一人腰掛け、ポケモンGOを起動する。本日も目当てのポケストップには桜が舞っていた。ありがてえと心の中で手を合わせて、僕はぼんやりとポケモンが出現するのを待った。
「……兄ちゃん、それ、ポケモンかい?」
数分程度、待っただろうか。突然、知らないおじいさんに話しかけられた。片手にはワンカップの日本酒を持っていて、顔が少し赤い。一目で酔っぱらいだと分かった。
「……ええ、そうです」
残念ながら、自分の目の前で話しかけてきた人を無視する勇気を僕は持ち合わせていない。僕は心の隅で、なんかエラいことになったなぁと思いながらも、適当に返事をした。
「やっぱそうかい! あれだ、最近駅前にやたら人がいると思ったら、みーんなポケモンやってるのか」
「ええ、まあ……たぶん、そうだと思います」
「あーそうかい、そうかい。ニュースでもやたら聞くもんな」
「そうですねぇ……」
正直、早く解放されないかなあと思ってしまった。さすがにこの状況はあまり歓迎はできない。するとおじいさんは意外な言葉を掛けて来た。
「ヒトカゲは、ここらへんにいるかい?」
「えっ、ヒトカゲですか? えっと……」
僕は”ヒトカゲ”という言葉にびっくりしながら、ポケモンGOの画面を覗き込む。あいにく、ヒトカゲの姿は見当たらない。
「うーん、ヒトカゲはいないみたいですね」
「おう、そうかい……」
おじいさんは残念そうにうつむいた。僕は急に、このおじいさんがなぜこんなことを言い出したのか興味を持ってしまった。今になって思えば止せばいいのにと思うのだけど、こういうゲームの話になってしまうとつい首を突っ込んでしまうのが僕の悪いクセだ。
「あの……ポケモンをご存知なんですか?」
「ああ、息子が昔遊んでたからなぁ」
おじいさんがボソボソと喋る。要約すると、息子さんが小さい頃にゲームボーイのポケモンを遊んだことがあって、その時にいたヒトカゲだけなんとなく覚えてるということだった。そんな中、ポケモンGOを遊んでる僕を見てふと懐かしくなって話しかけてきたらしい。
「あっ、ヒトカゲなら僕、持ってますよ」
僕はふと思い出して、スマホを操作する。確かポケモンGOをスタートした時に貰ったのがヒトカゲだった。所持しているポケモンからヒトカゲを表示してスマホをおじいさんに見せる。
「ああ、コイツだ。懐かしいな」
おじいさんはガハハと笑った。
それから少しだけおじいさんと話をした。なんでも息子さんは別れた奥さんに付いていってしまい、最近はほとんど会っていないんだとか。
「兄ちゃん、奥さんは大事にしろよ」
そう言い残しておじいさんは去っていった。時間にして僅か5分足らずの会話。しかし、なんだか色々考えさせられるものがあった。ポケモンも今年で20周年。確かにそんな思い出を持つ人がいてもおかしくはない。
おじいさんの姿が小さくなった頃、僕もよいしょとベンチから立ち上がった。結局その日はポケモンと出会えなかった。けど、まあこんな日もあるよね。
明日はどんなポケモンと出会うのだろう。もし偶然ヒトカゲを見つけたなら、僕は間違いなくこの日のことを思い出すんだろうなぁ。
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