ドラクエ10の酒場をきっかけに、近所のバーに突撃した話。

ドラクエ10 酒場

ドラクエ10において酒場という場所は欠かせない要素だ。

特に日頃ソロプレイを楽しんでいるユーザーにとって、酒場はサポート仲間を雇う為に何度も足を運ぶ事になる。一日の冒険の終わりに自分のキャラを酒場に登録することも大事な習慣の一つだ。ドラクエ10の世界を楽しむにあたって、冒険生活と酒場は切っても切れない関係なのである。

ところでドラクエ10では毎日酒場に通っている人でも、実際の生活で酒場に通ってるという人は少ないんじゃないかなあと思う。ここでいう酒場とはいわゆる居酒屋じゃなくって、もうちょっとオトナな雰囲気のバーのことだ。

なんとなくドラクエの世界にある酒場は我々の生活でいう、居酒屋ではなくバーに近い雰囲気だと思うのは僕だけだろうか。薄暗い店内で、横長のカウンターテーブルだけが置いてあって、なんかよくわからないけれど良い感じのBGMが流れていて、ちょっと年齢層高めのオトナたちが静かにグラスを傾ける―――そんな何かのドラマで見た様な落ち着いたバーに僕は憧れを持っていた。

最近、家の近所にこじんまりとしたバーがあることを知った。商店街の片隅にひっそりと存在するそのお店は入口が薄暗い地下にあり、興味本位で立ち入ることを拒んでいるかの様に入り辛い雰囲気である。しかし店の入り口には『Welcome! NoCharge!』なんてテカテカとした蛍光色のペンで書かれたブラックボードが置いており、「おいでおいで」と手招きするのだ。

ドラマで見たオトナの隠れ場、バー。興味は尽きねどやっぱり恐い。ビビリな僕は店の入り口に通じる階段の前を行ったり来たりし、遠巻きにブラックボードを眺めながらも入店できない日が続いていた。ドラクエ10で酒場に行き用事を済ませる度に、チラリとあのバーが頭をよぎるのだ。ああ、一度行ってみたいなあ。

ドラクエ10 酒場

さてさて、チャンスは突然やってくるものである。

その日僕はいつものように出勤し、ヨロヨロと業務をこなし、スキップで帰宅して家のドア待ちに立ち、そこでふと気付いた。

(・・・家の鍵が無い!?)

慌てて今日一日、それまでの行動を思い出す。鍵は落とした? 家に置き忘れた? 最後に鍵を掛けたのはいつだった? グルグルと思考を巡らし、やがて一つの結論に辿りついた。そうだ、その日僕は鍵を家に置き忘れたんだ。今朝、僕はいつも通り家を出てその後に同居人が家を出て鍵を掛けたのだ。そう思えば確かにその日一日、鍵を見なかった気がする。

鍵を紛失したのならそれなりに落ち込むが、部屋の中に置き忘れたのであれば多少は気も楽になるものである。僕はとりあえず同居人へ「鍵を置き忘れて入れない。何時頃帰ってくる?」といったメールを送り、時間潰しに近所のゲームセンターへ向かった。格闘ゲームをマッタリと触っているとやがて同居人から返信メール。その内容を読んで僕は思わずナンテコッタと白目を剥いた。

その返信メールにはこうあった。
『今日、仕事のピークで午前0時超えると思う』

ちなみにその時の時間は夜20時半。
僕は自宅を目前としながら最低でも4時間もの間、待たなければいけなくなった。

僕はいつも思うのだけど、日本という国は本当に働き過ぎだと思う。夜20時過ぎには自宅で炊きたてのご飯を食べることがどうしてできないのだろう。便利であろうとすればするほど、世の中の仕事時間は際限なく伸びて行き、そこに新たな需要が生まれ、新たな供給が注目され、仕事が増えていく。なんだか無限ループのようで僕にはそれがとても恐ろしく思える。

とはいえ今回の件は鍵を忘れてしまった僕が全面的に悪い。僕はふうと息を吐いて格闘ゲームに戻っていく。下手だけどそれなりに格闘ゲームを現役で遊んできた。ゲーセン4時間くらい、軽い軽い。1時間半ほど遊びお腹が空いた僕は手近なラーメン屋さんに流れた。醤油ラーメンにコーンをトッピングしてモソモソと食べる。
時計をチラリと見ると、まだ同居人の帰宅まで2時間程ありそうだ。

「ゲーセンに戻るかー」とラーメン屋を後にしたとき、ふと例のバーのことを思い出した。商店街の外れにある、入り口が地下にあって入店には勇気がいるあのバーだ。今日はバーに行く絶好のチャンスじゃないか! バーに行ってオトナならではの小粋な会話をしながら、普段は飲めない少し高めのお酒を堪能しようじゃないか!

そうと決まれば後は行動のみ。僕は意気揚々とバーの入り口までやってくる。地下に続く暗い階段下の入り口をチラッと見やる。やっぱり怖い。やめようかな。でもせっかくのチャンスだし―――。マゴマゴすること数分、僕はようやく階段を下りてバーの入り口に向かった。こちとら強力なモンスターが巣食うダンジョンを何度も踏破してきた冒険者なんだ。酒場なんてドラクエで毎日利用してるじゃないか。恐れることはない。僕は冒険者だ。

誰が見ているわけでもないのに、僕はバーにビビってる空気を出したくなかった。「ちょっと寄ってみるだけですよ?」と余裕振って階段をゆっくり降りていく。

階段を降りたら目の前にはバーへの入り口。
比較的新しい、木製のドアをギギギっと押すと、すぐに「いらっしやい」と声を掛けられた。

ドラクエ10 酒場

そこは僕が想像した通りのバーであった。細長く薄暗い店内、良い感じのBGM、六人も座ればいっぱいのカウンターテーブルがひとつだけ置いてあり、そこにはまだ若そうな男性のバーテンダーが立っていた。客はちょっぴり小太りなオジサンが一人と、僕より少し年上に見える30代前半のようなお姉さんが一人。その三人の視線が入り口に立つ僕に注がれている。ドラマや映画で見た想像通りの憧れのバーに浮き足立つ。

(助けてあずにゃん!)

無意識に心の中で叫んだ。なんだか想像通り過ぎて逆に恐くなってきた。こんな素敵な空間に僕みたいなキモオタがお邪魔して本当に良いのだろうか? とはいえこのタイミングで回れ右もできやしない。僕は観念して入り口から一番近い椅子に座った。

「何になさいますか?」

バーテンダーがメニューを見せてくれる。これが普段行き慣れた居酒屋であれば「とりあえずビール!」で済む話なんだけど、バーでやるには無粋な行為だ。ビールといってもその種類は様々で、世界には数多くのビールが存在する。とてもとても「とりあえず」なんて言葉で片付けられる代物ではない。とはいえビールについて詳しいわけでもない。僕は適当に一番上に書かれていた「ギネス」というビールを注文した。

バーテンダーが見慣れないビール瓶を取り出し、グラスに注いでくれた。泡とビールの比率が商品サンプルのように美しく綺麗で、とても美味しそうに見えた。早速、一口頂く。普段飲み慣れたビールとは異なる味に驚きながらもその旨さに感動した。今思えば店の雰囲気に酔ってただけかもしれないけど。

「今日はどうされたんですか?」
「え? いや、その、えっと・・・」

突然バーテンダーに話を振られて僕は言葉に詰まる。ドラマや映画のバーではどんな話をしてたっけと必死に考えるが思い出せそうもない。そしてなぜかこんな時に限って、ドラクエ10での酒場でのやり取りが頭をよぎる。

『今日はどうされたんですか?』
『ちょっとレベル上げをしようと思ってね。適当なレベルの平田を2人程紹介してくれないか?(キリッ』

言えるわけがない。伝わるわけがない。ああ、やはりまだちょっとバーは敷居が高かったかもしれない。負けた。歴史的な大敗だ。完敗だったよ、おっかさん。

僕は体裁を取り繕うことを諦め、素直に話すことにした。

「いや・・・その、実は家の鍵を忘れて部屋に入れなくなりまして」
「え?w どうするんですか?w」

想定外の答えだったのだろうか。バーテンダーが笑いながら聞き返す。

「同居人の帰宅が午前0時頃でして・・・それまで時間を潰そうかなと・・・w」
「あー、それは大変ですねぇw」

なんとなくその会話で緊張がほぐれた。気付くと他の客二人も少し笑っていた。

「私も前に鍵を忘れたことがあってさ――」

お姉さんが話に加わってくる。小太りなオジサンも乗ってくる。バーテンダーが上手く話を繋げてくれる。くるくると会話が回った。まさか鍵を忘れた話で盛り上がるとは思わなかった。素直になってよかった。

「そうそう。太巻きを食べる時に醤油って付けますか?」
「え? あれって醤油付けるものでしょう?」
「いやいや、私は付けないで食べるんですよ」
「えー、うそー」

いつの間にか違う話題になっていた。
くるくる、くるくる会話が回る。時計の針もくるくる回る。僕はすっかり楽しくなり、気付けばグラスが空になっていた。

「もう一杯、何か飲まれますか?」
「えっと・・・じゃあコレで」

選んだのはウイスキー。「ボウモア12年」のロック。ゆっくり飲むのに丁度良いお酒だ。知らない人と他愛の無い世間話をしながらお酒を飲む。素敵な時間だったと思う。

やがて同居人から連絡があり、僕は「おやすみなさい」と言い残して店を出た。

ドラクエ10 酒場

入店前はあんなに恐く見えた薄暗い階段も、今では軽やかに上っていける。ドラクエだって一緒。初めて進むダンジョンはちょっと恐いけど、ボスを倒した後の帰り道なら幾分気が楽になるもの。

少し飲み過ぎたかもしれない。階段を上り最後の一歩を踏み出す際、僕は本当に小さなジャンプをした。

チャラララチャッチャッチャーン♪

瞬間、ドラクエの代名詞とも言える例の効果音が聞こえた気がした。
そして頭上に「レベルアップ!!」の文字。

しらばくその文字は僕の頭の上で燦然と輝き、やがてそれは、まだ肌寒い春の夜空に霞んで消えた。

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気になったゲームの話題をマイペースで紹介する「その日草子」というブログを運営中。大作RPGから格ゲー、ギャルゲーまでジャンルを問わずゲームを愛するアラサー♂。けどホラーだけは苦手。お気に召した記事があればTwitterやはてな等でシェア頂けると凄く嬉しいです(・ω・)
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