PS4版『風ノ旅ビト』感想。言葉の無い世界で出会った”誰か”
PS4版『風ノ旅ビト』を遊んで
長い間気になっていながらも、なかなか遊ぶ機会が無かった『風ノ旅ビト』。確かPS3版がPSplusのフリープレイで配信された時にDLした気もするけど、「どうせならPS4版で遊びたい」という欲が出てしまい、結局そのまま遊ばずにきてしまった。
そんな『風ノ旅ビト』のPS4版がついに2016年9月、PSplusのフリープレイ作品となって配信され、僕はようやくこのゲームをプレイする機会を得た。プレイ時間としては2~3時間あれば余裕でクリアできる程度のボリュームだが、クリア後に得られた感情は数十時間かけてクリアしたゲームのそれに匹敵するんじゃないかと思う。たった2~3時間の体験でこんな気持ちにさせられるのだから、『風ノ旅ビト』は世界中で評価されている通り、とても大きな力を持ったゲームなんだなあ。
幸いにも僕は『風ノ旅ビト』について、ほぼ前情報無く遊ぶことができた。プレイ動画はもちろん公式サイトもwikiも見たことがないし、強いて言えば公式PVを何度か見た程度だ。だからここまでの感動を体験することができたのかもしれない。そんなわけで、もしこれを読んで頂いている方でまだ『風ノ旅ビト』を遊んだことがない人は、できればここで読むのを止めたほうが良い。
このゲームは何も知らずに遊んだほうが作品の魅力をそのまま楽しむことができる。でもその魅力が素晴らし過ぎて、今の僕みたいにその魅力を誰かに伝えたくて、でも伝えちゃうと、誰かが『風ノ旅ビト』で遊んだ時に得られる感動の何割かを削ってしまうんじゃないかと心配になる、なんとも罪深いゲームだ。
幸いこのゲームは上に書いた通り、2~3時間もあればクリアできるボリュームなので、『風ノ旅ビト』が気になったら何も調べずに「エイヤッ!」とゲームを遊んでしまうのが一番良い。ちょっと集中すればすぐに終わってしまう、花火みたいなゲームだから。
そしてクリアしたら、各自思い思いにこのゲームについて感想を述べたり、レビューを調べたくなったりするでしょう。そんな時は、この記事にもお付き合い頂けると嬉しいなぁと思います。
さて、前置きはこれくらいにして、以後は既に『風ノ旅ビト』をクリアした人向けに書いていきます。別にネタバレするわけじゃないんですが、一応ね。
実を言うと僕は『風ノ旅ビト』というゲームが、ほかの誰かとマッチングして遊ぶゲームだということすら知らずにゲームを始めていたのだ。完全にオフラインゲーだとどこか勝手に思い込んでて、一人でまったりと散歩するゲームだとばかり勘違いしていたのである。そんな状況だから、なーんにも無い砂漠の片隅でほかの旅ビトを見つけたときは完全にNPCだとばかり思っていた。
その旅ビトは僕の所に走って近付くと、妙な文字が出る音を発し始めた。『風ノ旅ビト』の世界には文字が無く、画面に映されるのは荒涼とした大地のみ。僕は彼が何を言っているのかサッパリ分からない。
「……役立たずなNPCだなぁ」
僕はそう思いながら、彼を置いて一人黙々と進む。すると、彼がピタリと僕の後ろを付いてくるではありませんか。
(なんだこのNPCは……。よくわからん。この先、2人でないと進めない場所でも出てくるのかな)
僕は一人、先に進むために必要そうな所をウロウロする。後ろの旅ビトは相も変わらず、僕の近くで妙な文字を出し続けている。うーん、うるさいNPCだな。なにか応えてあげると先に進めるようになるのかしら。
そう思った僕はようやく足を止め、彼の方を向いてコントローラーの○ボタンを軽く押した。すると彼も僕の近くで立ち止まり、何度も何度も、意味不明の文字を出してくる。
(んー……このNPC、喜んでるのかな?)
僕は試しに、今度は○ボタンを強く押し込んでから離した。僕のキャラクターはその操作を受けて、グググっとしゃがみこんでから、一際大きな光を放って意味不明の文字を出す。すると彼も同様の動きをして返してくる。同じ動作を互いに2度、3度繰り返した時、僕は思わず「あっ……!」と声が出た。
これはNPCじゃない! 人間だ! ほかの誰かが操作してるんだ!
僕はようやくその可能性に気付き、慌てて『風ノ旅ビト』の公式サイトをチェックした。するとこんな文言を見つけた。
言葉の無い世界で、
どこかにいる”誰か”と心で触れ、
自分を感じる時間。
これを見て確信する。この旅ビトは”誰か”だ。顔も名前も故郷も知る術もないけれど、これは確かに”誰か”なんだ。
その事実に気付いた瞬間、『風ノ旅ビト』というゲームの破壊力が一気に僕の心に押し寄せてきた。そういうことか! この旅ビトはシカトする僕に対して、一生懸命に話しかけてきてくれたんだ。うわあ、なんて僕は悪いことをっ!
その瞬間、僕は○ボタンを必死に連打していた。
ここです! 僕はここにいます! 今、初めて『風ノ旅ビト』を遊んでいます! あなたも初めてですか? 一緒に行きませんか!? 聞こえていますか!? ここです! 僕はここにいます!!
何度ボタンを押しても画面には妙な文字しか表示されない。僕も彼も、操る旅ビトの顔は無表情で何を考えているのかさっぱり伺い知ることができない。
けれど、彼からも意味不明な文字が返ってきた。もちろん何を言ってるのか分からない。ようやく反応した僕に対して喜びの言葉を発しているのか、それとも「てめえ、よくも散々シカトこきやがって」と怒っているのか。でも僕と同じ方向に歩き出したのだから、きっとマイナスな感情は持っていないんじゃないかなあとは思う。
その後、彼とはしばらく旅を続けた。そして別れは突然訪れる。
雪山を二人で励まし合って(これも僕が勝手にそう受け取っていただけだ)進んでいた時のこと、僕のPS4でアプリケーションエラーが発生してゲームが止まってしまった。急いで再起動するも、そこには誰もいなかった。仮に誰かいたとしても、それが先ほどの彼だと確かめる術をこのゲームは許していない。僕たち旅ビトの顔はみんな全く同じ、身長も同じ、そして言葉によるコミュニケーションすら用意されていないのだ。
僕は、ゲームが少し巻き戻されてしまったことと、独りになってしまったことに気落ちしてトボトボと旅を続ける。さっきまで隣に彼がいてあんなに心強かったのに、今では冷たい吹雪が身を襲う度に心細くなる。
トボトボ。トボトボ。僕は旅を続ける。ああ、なんて寒くて、心細いゲームなんだろう。トボトボと歩き続ける。
そんな時、少し離れた所に旅ビトを発見した。それはさっきの彼かもしれないし、別の人かもしれない。けど、”誰か”には違いない! 僕は無我夢中でそこに向かう。旅ビトは走ったりしないから、僕がいくら左スティックを強く押し込んでもそのスピードは変わらない。けど、押し込まずにはいられない。○ボタンを連打せずにはいられない。
ここです! 僕はここにいます! 今、独りなんです。あなたも独りですか? 一緒に行きませんか!? 聞こえていますか!? ここです! 僕はここにいます!!
夏の夜に飛ぶ虫が、次々と青白い殺虫光に吸い寄せられるように。
水槽の水を取り替えてもらえない金魚が、酸素を求めて水面に口をパクパク開けるように。
MPもアイテムも尽きて全滅寸前となったRPGで、ようやく見つけたダンジョンの出口に慌てて駆け込むように。
僕は目の前に現れた旅ビトに吸い寄せられ、無我夢中で左スティックを押し込む。○ボタンを連打する。ここにいますと、声にならない文字を発し続ける。
やがて、遠く離れた旅ビトから微かな光が返ってきた時、僕は確かに”誰か”を感じた。
こんな体験したことない。こんなゲーム見たことない。こんな僅かだけど、でも忘れられない感動をすることになるとは思わなかった。
『風ノ旅ビト』。こりゃあヤバいわ。ヤバすぎるわ。
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